エンジン(バルブ)はまだまだ使い続けられる
皆さんご存じの通り電気で走行もできるHEVやPHEVの車両にもエンジンが使われており、今なおこれらに向けた新規のエンジン開発が進められています。また、大型エンジンではバッテリーの容量問題などBEV移行には相当な課題を抱えていることから、BEVへの移行は堅実にすすめられる一方でCN燃料の普及も相まって今後もエンジンは使われ続ける見通しです。

エンジンバルブとは
エンジンを自動車の心臓に例えると、エンジンバルブ(以下、バルブ)は心臓内部にある弁のような役割をする部品です。心臓内部の弁は血液が流れる時に開き、それ以外の時は閉じて血液の逆流を防ぐ働きをします。
バルブはエンジンの心臓内部に当たる燃焼室の吸気口と排気口に設置され、一般的には形状がキノコに似ていることからからキノコ形をしたバルブと呼ばれるため、弁の蓋に当たる大径部は傘部と称されています。
エンジンでは吸気バルブを開いて空気・燃料を吸い込ませた後に全てのバルブを閉じて燃焼室内で圧縮・燃焼させることで動力エネルギーに変えます。その後、排気バルブを開いて燃焼によって生じた燃焼ガスの排出をコントロールしています。
産業分野に於いて幅広く使用されている4サイクルエンジン(吸入-圧縮-爆発-排気)は自動車以外にキャンプで使用される発電機等の小型から建設機械や船舶向けなどの大型のものまで同様のキノコ形のバルブが使用されています。


エンジンバルブに求められる性能とは
エンジンバルブはエンジン内部で非常に過酷な環境下で使用される部品です。
バルブは単体の部品ですが、要求される機能は幾つかあります。まずは800〜1000℃の高温下での繰り返し使用に耐えられる強度が要求されます。
次に弁としての耐久性が要求されます。弁の開閉は非常に高速で行われ、例えば時速100kmで走行している場合なら、1分間に約1000回ほどの開閉が行われています。この開閉の過程ではバルブの上下動をガイドするバルブガイドと激しく擦れ、バルブが閉じる際にはバルブシートとの間で衝撃力が生じ、更に燃焼時には傘部に燃焼圧力が加わって引張・圧縮応力が生じます。
これらの環境下で正確な開閉性能と燃焼室内の気密性を維持することが求められます
このため、バルブは通常の機械部品とは異なり、耐熱性に優れるステンレス系耐熱鋼やNi高合金などの高級な特殊材料が使用されると共に、1/1000mm単位の高い寸法精度が求められます。
エンジン運転中のバルブ温度
(特殊計測器を用いて測定)


エンジンバルブはこうして製造されます
バルブの製造は、棒状素材から所定長さに切断したビレットを熱間成形でおおよその形状まで成形し、所定の熱処理を施した後に研磨加工にて完成形状まで加工します。
前述の様にバルブに使用される耐熱鋼やNi高合金は特殊鋼と呼ばれ、一般的な材料に比べて、クロムやニッケルなどの強化元素を多く含んでいる為、難加工材であることから成形や機械加工には細かい管理が必要で、何れも高い技術が必要です。
当社では加工設備や検査設備についても自社設計を行ない、高品質と高い生産性を実現しています。
中でも傘と軸部の両方に空洞を設けた傘中空バルブは、世界的にも唯一の工法を取り入れています。これまで中空弁の空洞は旋削加工が主流でしたが、当社では傘部の空洞形状を冷間鍛造で成形する技術を取得しています。


フジオーゼックスのエンジンバルブ
1特殊鋼グループ会社の強み
エンジンバルブはエンジン性能維持に重要な役割を担い、高い耐久性と耐熱性が要求される部品です。そのため、バルブには用途に適した高温での強度の高い特殊鋼が用いられています。当社は特殊鋼国内製造でトップシェアを誇る大同特殊鋼グループ企業の強みを生かし、共同研究の取り組みや製造性やバルブ製品設計に必要な知識・情報を豊富に蓄えることで、お客様から高い信頼を戴いています。


2設備開発取り組み
当社は様々なエンジンバルブの仕様の加工や高い生産性に応えるために、生産に関する設備の設計機能を設けて生産および検査設備の自社設計を行っています。先に説明した通りバルブは高強度の特殊鋼を使用し、且つ高精度が要求されるため、鍛造や研削加工には高い技術が必要です。
それら加工を実現させるために設備自体の加工精度向上や金型、砥石などの最適化、又、加工された製品が規格通りできていることを早い段階で保証することが重要です。これら設備開発にはIoT活用やDX推進を取り入れることで、高品質を維持しながら高い生産性を得ています。
また、生産時に発生するCO2発生抑制にも配慮し、気候変動対策に取り組んでいます。


3世の中のニーズを解決する技術力がある
エンジンの高性能化に応えるため、さまざま技術開発に取り組んでいます。
1つは中空バルブの開発です。エンジンの燃焼温度が高まるとバルブが熱に耐えられず、寿命が短くなります。中空バルブはバルブの傘や軸の部分が空洞になっており、その中にナトリウム(冷媒)を入れて冷却性を高めることでバルブの耐久性を高めています。
さらに今、鏡面加工の開発に取り組んでいます。バルブの燃焼室側に晒される面を鏡のように磨くことで平滑になり、燃焼室に晒される面の表面積が小さくなるため、熱が伝わりにくく、さらに熱の流れが良くなります。こうして燃焼室内の温度を逃さず、エンジンの燃焼効率を高める技術に着手しています。
バルブ自体の耐久性を高めるとともに、バルブによってエンジン効率を高める、という2つの技術
に注力して、これからの自動車に貢献しています。

